【VTuberは、ぽこピーだけ見てればいい】

【変態の国の、おかしな文化】

 日本は、気色の悪い国だと思う。
生み出すコンテンツは世界のどの国と比べてもなよなよ、ジメジメとして異質。
漫画・アニメはその代表的な例だと思うが、登場人物が頬を染め、天を仰いで咆哮しつつ寒天状の涙を絞り出す描写などは、常軌を逸している。
それを最初に作ったのが今年81のおじいちゃんクリエイターだと言うからいよいよ訳が分からない。

そんな変態の国日本が近々に生み出したのが、「VTuber」なる物である。
YouTuber自体、おじさん達には受け入れ難い存在なのにそのアニメキャラ版、となるといよいよ異世界である。
彼らは一体何を目的に活動している、どういった趣旨の存在なのだろう。
今回は、今業界で最も勢いのある「ぽこピー」を中心に、その周囲を彩るVtuber達について批評していきたいと思う。

 

【① 富士 葵:61点】
【チャンネル登録者数:33.2万人】
【直近再生回数(平均):1.8万回】

【 概要 】 
 富士葵は、VTuberユニット「ぽこピー」の盟友の一人で、VTuberの中ではかなりの古株になる。裏方・出役どちらとしても優秀な「キクノジョー」を相方に、万全な環境で活動する温室育ちのVTuberと言えるだろう。

ぽこピーとのコラボの際は、富士・キクノジョー共にぽんぽこよりもピーナッツくんに興味を示し、立てるというVTuberの中でも非常に珍しい立ち回りを見せる。
これは二人の知的好奇心・文化レベルが高く、「面倒だし、ややこしいけど奥が深い物」をより好む性格をしているせいだろうと思う。
大抵のVTuber(特に女性)はピーナッツくんを、「ぽんぽこにコラボ依頼すると付いてくる、なんか面倒臭い奴」ぐらいにしか思っておらず、彼は誰とコラボをしても結構酷い仕打ちを受けるのだ。

思いがけず持ち上げられると内弁慶を発動してしまい、富士・キクノジョーに対して上から絡んでしまうツンデレぶりは、ピーナッツくんの新しい萌えポイントだろう。
富士にデレ過ぎてうざいパパのようにあしらわれても、「葵ちゃ~ん、もっとお話しようよぉ~」とキモオタのように追いすがるぽんぽこも新鮮だ。
ぽこピー×富士のコラボは他のどのVTuberとのコラボとも違う、和やかな雰囲気と強い相乗効果を生んでいて、私はこれが一番いい組み合わせなんじゃないかと思っている。

どのくらい認識されているか分からないが、キクノジョーという運営は本当に有能だと思う。大企業の後ろ盾があるにしても動画の編集能力が凄まじく、用意する企画は流行を押さえつつ繊細でポップ。富士を最大限引き立てる事に留意しつつ、常に一歩下がってお膳立てする姿勢は運営の模範例である。
ガッチマンに近いような飄々とした、ネット民に一番受けるタイプのキャラクターは富士ファンの気持ちを逆撫でず、なかなかの美声で器用に立ち回り、汚れ役・腐され役だって喜んで引き受ける。彼が安っぽくて変なモデルを延々使い続けるのも、その方が富士が引き立つし、視聴者の勘に触らないからである。
話術や、笑いに関してもその辺のVTuberなんかよりよほどレベルが高くて、もうあんたが単体でVTuberやればいいじゃん、と言いたくなってしまう。

後述する朝ノ瑠璃が、彼レベルの運営を引き当てていれば、と考えると無念でならない。後ろに付いて補佐する運営のおかげで生かされるVTuberもいれば、殺されるVTuberもいるのだ。


【 近況 】
 最初のVTuberが誕生したのは2016年末頃で、今の古株・中堅所(ぽこピーを含む)が団子になってデビューしたのが2018年初頭なので、2017年末にデビューした富士はVTuberの中で先行組の部類に入る。

人気商売は「先行逃げ切り」が鉄板の必勝法である。
大企業をバックにつけた企業勢であり、優秀な運営に高価な機材、整った撮影環境等、活動に必要な物は十二分に当てがわれている。
実家の自室で低スペックなPCを用いて活動するVTuberもいる中で、かなり恵まれた環境にいると言えるだろう。

しかし最近の富士はどう見ても下がり調子である。
チャンネル登録者数はVTuberの中ではやや多い方だが、それに対してあまりに少ない再生回数を見ると、「先行してて、しかも企業に入っているのにこの程度」と言わざるを得ない。
チャンネル登録者数20万人代でも一動画の再生数が5万回を下回ったら調子がいいとは言えない。3万回が大体ギリギリのラインだが、富士の最近の動画・配信は悪いと1万回を下回ってしまう。


【 問題点・課題 】
 富士の売りは若くあどけない可愛らしさと清潔感に溢れたキャラクター、そしてVTuberの中で抜きん出て真っ当で、筋の通った人格である。
これに前述のアドバンテージが足されているなら無敵じゃないか、と思うかも知れないが、彼女の戦場はYouTube。下品で浅薄、分かり易いネタが再生回数を稼ぐ世界である。悪く言えば、彼女は多くの視聴者にとって「つまらない存在」なのだ。

一見引きのある企画やトークも、ボケも突っ込みもしない彼女の立ち回りだと一向にハネない。動画や配信の中では只々可愛い女の子の一人喋りが続くが、富士と同等以上に魅力的で、唯一無二の特性を備えたVTuberは日々生まれ続けている。
それだけでは到底生き残れない。

足りないのは彼女自身のプライベートや素の部分をさらけ出してネタにする事だと思うが、運営が彼女を非常に大事に扱っていて、そういった企画が組まれる事は基本的にない。富士自身もチャンネルを少しでも大きくしたい、もっと上に行くには何が足りないかな、と試行錯誤する事をしない。
何故なら彼女は今の活動をあと数年繰り返した後、業界を引退するつもりだからである。

例えば彼女の盟友「ぽこピー」は、この業界に骨を埋める想定で活動している。
どちらも正反対にベクトルの向いた社会不適合者で、ここ以上に自分を生かせる場所はない。他のVTuberのように「声優として売れるまでの繋ぎ」とか「若い間だけアイドル的に活動して、後は結婚」といった逃げ道がないので、動画を面白くする事・チャンネルを伸ばす事に二人で全集中していて、それが今の勢いに繋がっている。

彼らのチャンネルに上がっている動画で、再生回数の回っている物は全部二人の性格や日常生活の素の部分をネタにして作られた物だ。
対して富士の配信や動画は流行りのコンテンツやキクノジョーさえいれば他のVTuberでも出来るような企画をネタにしていて、富士独自の個性があまり反映されていない。
これが二つのチャンネルの明暗を分ける大きな要因だろう。

VTuber、ひいてはYouTuberは本人が動いてなんぼである。
自分の性格や趣味を反映して、あのYouTuberみたいになりたい、あの動画のあの技術を取り入れたい、トークスキルを伸ばして登録者数は何年以内に何万人目指して・・みたいな目標に向かって本人が目一杯動いていないと、視聴者が後を追ってくれない。
運営にあれこれ用意して貰って、現場で仕事をしたら後はプライベート、というのはどちらかと言うと芸能人のスタンスである。


【 今後 】
 富士はVTuberと言うより、3Dモデルを被ったマイナーアイドルだ。
若い間だけファンの前で歌って踊って、適齢期が来たら男を見つけて引退してしまう。
彼女の目標は「より多くのシングルを出す事、より大きな舞台で歌う事」であり、そういう意識で仕事をして、本筋のVTuberYouTube上で押し負けるのは当たり前の事なのだ。
彼女の主戦場はYouTubeで、そこでより大きな存在となる事でさらに大きな舞台に立つ事が出来る、という基本構造を彼女自身意識出来ていない気がするが、最初からそこまで上を見ていないのか、天然で分かっていないのかはキクノジョーぐらいにしか分からない。

私が彼女に望むのは、「引退までの数年間に、少しでも多くぽこピーとコラボをして欲しい」という事と、「キクノジョーの素晴らしさを事務所に訴え、彼をバックにつけた別のVTuberをデビューさせるよう強く進言して欲しい」という事ぐらいである。


→【➁月ノ美兎】に続く